クリーン言語


クリーン言語(David Grove`s Clean Language)

 

テキストは、随時、追加していきますので、時々ホームページをごらんください。

 

当ページの目次:

 

始めに ーー クリーン言語の概要を説明しています。

A: クリーン言語の2つの根本的原則:認識論的メタファー+クリーン言語の質問体系

B: クリーン言語の質問例

C: クリーン言語のセッションプロセスの概要

D: セッション抜粋例

   

               ーーー 始めに ーーー

 

クリーン言語は、クライアント・患者さんのトラウマ体験に対処する手法として1980年代に開発されました。クライアント・患者さんの中からメタファーを導き、その人自身のメタファーを発展させ、メタファーのナラティブを展開することでトラウマの解消を図ります。

 

セッションのプロセスの過程で、目標達成への糸口、問題解消、または問題解消への深い洞察が、クライアントさんの中から自然に生まれるように考案されたアプローチです。臨床心理の現場では、特に、認知療法では解消しなかった症状の解消やトラウマ治療に効果を発揮してきました。

 

クリーン言語のプロセスの特徴としては、クライアントさんの感情や思考の言葉からパーソナルなメタファー(心理的表象、心理的イメージ)を導き、そのメタファーのナラティブを展開していきます。パーソナルなメタファーとは、その人独自のユニークな体験をぴったりそのまま代表しているメタファー(心理的イメージ)で、認識論の枠組みを用いて導きます。

 

例えば、私たちが「ストレスがあります。」と自分の体験を語る時、私たち一人一人、ストレスがある、をどのように体験しているかは異なってきます。「ストレスがあります。」は、ある人にとっては「重い岩が背中に乗っかっているよう」かもしれません。そして、また別の人にとっては、「顔の周りに雲が渦巻いているよう」かもしれません。また、「とてもクリエイティブな感じです。」という体験も、ある人にとっては、自分がクリエイティブな時、それは、「飛び石がぴょんぴょん水面を飛んでいるよう」かもしれませんし、別の人にとっては、「深く根を張った木がすくすく伸びていくよう」かもしれません。 このように、「ストレス」「クリエイティブ」という私たち一般に用いている言葉も、一人一人の体験に即したパーソナルな心理的イメージで、その体験を的確に把握することができます。

 

 クリーン言語のコーチングまたはカウンセリングのセッションでは、クライアントさんから出される情報(言葉、イメージ)を基にしてプロセスを進めていきます。プロセスを進行させる技法は1980年代には確立されました。プロセスでは15個くらいの一連の簡潔な問いが考案されています。

 

セッションのプロセスでは、クライアントの言葉をそのまま繰り返し、その時に適切なある特殊な問いを投げかけて、クライアントの答えを受け、さらに繰り返し、問いを投げかけてプロセスを進めていきます。クライアントの言葉を繰り返すことで、クライアントの世界観に共鳴した場を形成していきます。そのプロセスで、クライアントの体験を表現するパーソナルなメタファー(心理的イメージ)を導き、その物語りを展開していきます。その中で、クライアントさんは今までの自分の物語りが変容し、メタファーを通して新たなナラティブ(物語り)が生まれることを体験していきます。クライアントさんは、今までは意識の中では接することのなかった自分の中の知恵・知にアクセスし、その中から新しいナラティブ(物語り)を形作っていきます。

 

往往にして、クライアントさんは、コーチングのセッションに於いても、ナラティヴが自分が予想もしていなかった展開となり、体が軽くなった、とかエネルギーが湧いてきた、とか、問題がいつの間にか解消していった、という感想をお話しになります。また、クライアントさんが展開されたナラティブ(物語り)の中で、美しいシメトリーが現れることがあります。

 

このプロセスを展開するため技法は1980年代に確立されています。クリーン言語(Clean Language)の技法も一連の質問も、1980年代にディビッド・グロブとカイ・ディビス・リンの共同活動の中で開発・完成されました。

 

クリーン言語は、元々は、臨床心理の現場より開発されたカウンセリングの手法ですが、コーチングやクリーン・ペアレンティング等にも活用されています。日本では、2018年以降、カイ・ディビス・リンと日本で唯一のディビッドの直弟子である泉よりトレーニングを受けた「クリーン言語テクニシャン」が、次々と生まれています。

 

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ー そして、更に

 

クリーン言語のコーチングやカウンセリングでは、クライアントは自分の問題の内容を明らかにする必要がありません。クライアントの思考・感情の言葉から、その人固有の心理的表象(メタファー)を導きます。そして、そのメタファーを自律させてメタファーのナラティブを展開していき、問題の解消を導きます。クリーン言語のコーチングやカウンセリングでは、まずは、クライアントのゴール・願望を尋ねますが、ゴール・願望を発展させるのではなく、クライアントのいる現時点に焦点を当てプロセスを展開し、願望を達成する方向でプロセスを進行します。

 

例えば:自分はある状況でもっと自信を持って行動したい、自分の将来のキャリアについて考えがまとまらない、新しいことを学んでいるが、もっとスムーズに学びたい、あることが起きるとイライラするので、落ち着きたい。

クライアント:私は一般に自信を持って行動していきたい。

その時に、「自信を持って行動する。」はクライアントの願望で現時点では「自信を持って行動」できていないのですから、その現時点に焦点を当てることからプロセスを進行させます。

 

または、問題の提起ではなく、クライアントがポジティブな状態にいるときに、自分は何の様だろう、かをイメージ・メタファーで把握したいときにも、クリーン言語の一連の質問は効果的です。例えば、「あなたがクリエイティブな状態のときは、何の様ですか。」のその人のユニークなメタファーを見出すことで、そのクリエンティブな状態がもっと明確になり、身近なものとなります。自分のそのようなメタファーを「所有」したときに、いつもはいらいらするような状況がすんなりと乗り越えられた、という感想が寄せられています。

 

 

A: クリーン言語の2つの根本的原則

 

1. ©認識論的メタファー(Epistemological Metaphor) 

2. クリーン言語の質問体系 ーー質問例もこのページに表記されています。

 

 1. 認識論(epistemology)は、デビッド・グロブとカイ・ディビス・リンの開発したクリーン言語の理論的基盤の重要な一要素です。認識論とは、個人が「。。。を知っていることをどのようにしてわかるか・知るか」に関する学問です。©認識論的メタファーは、一人一人の中に固有に内在する知識を抱合し、提示します。「。。。を知っているということを、どのようにして知りますか。」(How do you know what you know?) という質問から、©認識論的メタファーを導き出すことができます。©認識論的メタファーの概念は、デビッド・グロブとカイ・ディビス・リンの共同研究・活動より開発されました。

 

人類に共通する一般的な体験の言葉ーーーー> 個人固有の形 へと、セッションの中で変換します。

 

一般的な体験の言葉は、例えば、「嬉しい」「悲しい」「自信がある」「クリエイティブである」とかいう表現の言葉です。

 

2. クリーン言語の質問:クリーン言語は、クライアントの返答から、一連の簡単な質問を問いかけ、プロセスを進行させていきます。(質問例については、当ページに記載されています。)これらの質問をクライアントに投げかけることで、「自信がない」「楽しい」とかいう私たちが普通一般に使う言葉を発展させて、その人固有の形・イメージを導きます。

 

クリーン言語の質問は2つのグループから成立しています。 

第1グループは、情報を形・メタファーへと発展させる質問で、第2グループは、その形・メタファーを時間の中で成長させる質問です。ここで、情報、というのは、クライアントの言葉の中に存在する情報のことです。

 

 クリーン言語の質問

 

1。発展させる質問

2。成長させる質問

 

B: クリーン言語の質問例

 

最初に

What would you like to have happen ?

何が起こって欲しいですか。

 

発展させる質問の例

And how do you know when you ….. ?

(あなたが)….. の時、どのようにして(そうだと)わかりますか。

And is there anything else about  ….. ?

そして、….. について他に何かありますか。

And what kind of ….. could ……. be ?

どのような …. でしょうか。

And where do you have ….. ?

そして どこに ….. があるでしょうか。

And does it have a shape or a size?

そして それは形やサイズがありますか。

And is it like what ?

そして、それは何のようですか。


成長させる質問の例

 

What would ….. like to have happen?

….. は何が起こってほしいでしょうか。

And what happens next?

そして 次に何が起こりますか。

And as that happens what might ……. like to do next?

そして それが起こる時に、…….は次に何をしたいでしょうか。

And what could be the first thing that could happen.?

そして、 何が最初に起こることができるでしょうか。

And what would ….. like to do and what would ….. like to have happen ?

そして ….. は何がしたくて、何が起こってほしいのでしょうか。

  

C: クリーン言語のセッションプロセスの概要

 

始まり:願望のマトリックス

位置の探求: 

発展させる: 形を発展させる (Develop Form) 

成長させる:時間の中でメタファーを成長させる(Mature Time)

 

始まり:願望のマトリックス:

     「何が起こってほしいですか。」(What would you like to have happen?)

                

「何が起こってほしいですか。」の質問の返答として、次の3つの返答が提示される。

  • 起こってほしいこと
  • 起こってほしくないこと
  • わからない。

クライアントの返答がどのような返答であろうとも、その返答を変えることなく、そこよりセッションを始める。クライアントが問題提起をしても、問題提起をアウトカム(クライアントの願望)に変更する試みはせずに、クリーンにプロセスを進める。PROモデルは、デビッドとカイが開発したクリーン言語にはありません。(下記のセッション抜粋例1)を参照。

 

「。。。(を知っていることは)どのようにしてわかりますか・知りますか。」の質問も使う。

 

位置: 思考・感情・症状の位置を探る。「どこに。。。。ですか。」「どこに。。。がありますか。」

クライアントの感情・思考がどこに位置しているか、を明確にすることが大切です。

 

発展: 位置を明らかにしたら、その感情・思考を形へと発展させて、メタファーを導く。

「。。。はどのような。。。ですか。」(What kind of  .......?)

 「。。。。は、何のようですか。」(.....  is like what? )

 

成長: メタファーを成長させる。Grow metaphors in time. 「そして、次に何が起こりますか。」

 

(注意:Clean Languageの説明で、メタファーを「成熟」させる、は誤った和訳です。)

 (What kind of ......?も「どのような.......ですか。」と訳します。

 

 

クリーン言語は、現在では、コーチングの領域で活用されていますが、その起源は1970年代末にカウンセリングの現場より生まれ、1980年代にデビッド・グロブとカイ・ディビス・リンによって開発、完成されました。開発の過程で、デビッドのメンターであったビル・ローリン、スティーブン・ブリッグス、デビッドの三番目のメンター(システム・サイエンティスト)の貢献が大きいです。1990年代のエルドン時代には、彼らの米国ミズーリー州のリトリート・センターには多くの「知識人」クリニカル・サイコロジスト、臨床心理士、大学教授・講師が集い、活発な議論・活動の中でクリーン言語はさらに進展しました。

 

クリーン言語発展の初期には、デビッドとカイは、特に、トラウマ治療に専念し、トラウマ治療の現場を数多く踏む中で、クライアントが過去のトラウマ体験を再度繰り返し話すことをしなくても(そして、再度のトラウマ体験が繰り返されないような)セッションを進めていける方法を開発しました。

 

クライアントの、悲しいとかストレスがある、とかいう言葉を形に変換して、形からクライアント自身のメタファーが生まれることを導きます。さらに、簡単な一連の質問を与えることで、そのメタファーが発展し、成長していくのを促進します。クライアント自身の中から生まれたメタファーが発展して成長するプロセスの中で、そのクライアント個々人にとって自然な解決策が生み出され、回復のプロセスが進みます。つまり、クリーン言語の質問を通して、その人自身の内部から自然に生まれてきたメタファーを発展させ、成長させることで、その人に合った解決策が生まれてくるのです。

 

 

D: セッション抜粋例

セッションは、例えば、次のように進んでいきます。

 

セッション抜粋例1

 

コーチ:そして、あなたは何が起こってほしいでしょうか。

A: 何か色々とあって、焦り気味なので焦らないで落ち着いて過ごしたいです。

コーチ:そして、焦り気味なので焦らないで落ち着いて過ごしたい、時に焦り気味はどのようにしてわかりますか。

A:  前へ、前へ、と進もうという感じ。

コーチ:そして、前へ、前へ、と進もうという感じ。(繰り返した後で)前へ、前へ進もという感じ、はどこにありますか。

A: 頭に

(コーチはさらに位置を尋ね、頭の中で頭の天辺、表面のあたりにあることが明らかになる)

コーチ:そして、、頭の中で頭の天辺、表面のあたり。頭の中で頭の天辺、表面のあたりの時に、それに形やサイズはありますか。

A: 形ははっきりとはわからないけど、何か力強い引くような。ぐっと引いて出て行くような

コーチ:そして何か力強い引くような。ぐっと引いて出て行くような。そしてぐっと引いて出て行く、は何のようですか。

A: 奔流のような。

 

そして、「奔流」というメタファーを発展させ、成長させてセッションを進行させます。

 

 セッション抜粋例2

 

カウンセラー:あなたが悲しいと感じる時に、どこに、悲しい、と感じますか。

 

クライアントB:わたしの胸に。

 

カウンセラー:そして、胸のどこのあたりに悲しいと感じるのですか。

 

クライアントB:ちょうど、真ん中にあたりです。

 

カウンセラー:そして、それがちょうど真ん中のあたりの時、ちょうど真ん中のあたり、とは何のようですか。

 

クライアントB:空っぽのようです。

 

カウンセラー:そして、どのような、空っぽのよう、ですか。

 

クライアントB:虚ろでひとりぼっち。

 

カウンセラー:そして、虚ろでひとりぼっち、は何のようですか。

 

クライアントB:まるで、わたしは洞窟に入るようです。

 

それから、カウンセラーは、例えば、「そして、洞窟にいるようです。そして、洞窟について他に何かありますか。」というように、この洞窟のメタファーを発展させて、そして、成長させていきます。

 

上記例2の英語版:

Cousellor (C): When you feel sad, where do you feel sad?

 

Client B (B): In my heart

 

C: And whereabouts in heart is sad?

 

B: In the middle

 

C: And when it`s in the middle, it`s in the middle like what?

 

B: Like an emptiness

 

C: What kind of emptiness?

 

B: Hollow and alone.

 

C: And hollow and alone is like what?

 

B: Like I am in a cave.